新・佐伯観光名所宣言!
大分銀行佐伯支店新店舗壁画プロジェクト2014
制作は題材探しからはじまる。
『佐伯の活力を表現してほしい』と甲斐支店長から依頼されていたこともあり、
『活力』=『人』と解釈し、それでは佐伯の人に出会おうと決めた。
知り合いのつてから五所明神社の橋佐古さんを介して豊日神楽面工房の久保田さんをご紹介いただいた。
工房で久保田さんはじめ佐伯神楽保存会の安藤さん村上さんにお会いした。
久保田さんは神楽面の彫り師、安藤さんは富尾神社宮司、村上さんは消防員。そもそもまず神楽人に会ってみようと思ったきっかけになったのは、※キャラリンパプロジェクトで瀬尾さんの撮影した村上さんの神楽姿だった。パッと晴れやかなその雰囲気とキレに導かれた。
『バイクで転んで足と肋骨を折ってしまいました』
初対面の村上さんの第一声だった。あららと思ったが師匠の安藤さんが『ならばワシが舞うで』と、久保田さんは『笛や太鼓、お囃子も描き込むと絵から音が聞こえてくるのでは』と絵の構成についてや『見上げ構図で舞う表情を撮影するならばジャンプ撮影がよいのでは?自然な衣装の広がりが表現出来るのでは』村上さんの意見だ。楽しく展開するイメージを喜びを持って迎え、みなさんの美意識を心地よく感じた。
村上さんのお宅にもお邪魔して佐伯神楽の資料や写真それにかける想いをお聞きした。
蛇に見立てた白布を〝真剣〟で切断する気迫こそ佐伯神楽の神髄だ。
精神性の高い儀式のように感じた。
久保田さんの紹介で重岡岩戸神楽保存会の山岡さん宅を訪問した。
佐伯宇目重岡地区に90年伝わる民間興行のチームだ。
佐伯神楽の神事とは異なり、劇団風、衣装もデコラティブで派手な印象。
演目に登場する大蛇も創作的でユニークだった。
[撮影会/6月14•15日 ]
撮影は佐伯現代アート計画の管さんの協力で、管隆倉庫を撮影スタジオ化した。
菅隆倉庫スタジオに、アームレスリング世界チャンプの塩月さんがやってきた。右腕世界4連覇、左腕世界2位という塩月さんは佐伯の有名人だ。この撮影は佐伯支店天井画作りとは別件であるのだが、同銀行がスポンサーとなっている企画が進行中ゆえ同時に創作を行う。塩月さんは蒲江の水産会社勤務、淡々と自分の世界をもっている人、腕力の哲学、人間性の崇高さを感じ瞬時に尊敬の気持ちが湧いた。
『アームレスリングは常に勝つイメージをもち続ける事、すこしでもイメージ出来ないと腕をへし折られます』
『肉体のトレーニングはもちろんの事、イメージ力を鍛える事も同じくらいに大事な事です』
世界の頂点に立つ男の言葉に心が洗われた。凡人はそうは思ってもそうはいかないもの、、持って生まれた才能なのだろうなと拝みたい気分になった。
八幡地区『ジョーヤラ』の旗の撮影も行った。
強力な扇風機8台で風を起こしての撮影だったが電力を使いすぎて首藤内装のブレーカーが幾度も落ち迷惑をかけた。原色のカラフルな旗は風になびくとやはり祭りのスケールを感じさせ心踊った。大宮八幡宮司 神志名さん、総代の大畠さん、お手伝いくださった八幡のみなさんに感謝したい。こちらは次回作の予告、乞うご期待。
さて今回天井画題材の『神楽人』
佐伯神楽保存会の皆さんが撮影にやってきた。
衣装に着替えるとたちまち倉庫が聖域に一変する。
神聖な空気が漂い気持ちが引き締まる。
骨折リハビリ中の村上さんも衣装に着替えた。
面を付けた気迫が凄い、何でも切断できそうな真剣をかざす姿は畏敬と美しさを感じた。
しかしさすがにジャンプはさせられなかった。
師匠の安藤さんはやはり凄い人だった。
面と身体が一体化している。その物語りが身体に乗り移っていて動作に人間を感じる箇所がない。
キャラクターそのものゆえに写真はどのカットをとってみても完璧な迫力で美しかった。
久保田さんの笛、若者の太鼓もすばらしくよかった。
夜、重岡岩戸神楽保存会の若者達が撮影にやってきた。
『絵を描いてもらえるチャンスだとおもってやってきました!よろしくお願いします。』
仕事帰りなのだろう作業服で汗だくな笑顔が新鮮に感じた。
『重岡岩戸神楽は現在18名で20代が多いんです。神楽が好きで、演技の話など朝までファミリーレストランで討論するんです。代々受け継がれた面を付ける誇り想いを感じて毎日を過ごしています。』
彼らの撮影は演者自身が相談しながらカメラチェックし、自らダメ出しを繰り返し幾度となくチャレンジし続けた。
中でも今回の作品のメインに選んだ“スザノウ”を演じた若者は息を切らしながらいちばん多く空中でポーズし続けた。
フォルムの美に於いて佐伯神楽の安藤さんの完成度には及ばないと感じたが、イメージを摺り合わせられず葛藤する若者の挑む姿には未来を感じた。姫(クシナダヒメ)が舞った姿は完璧に美しかった。福の神も連れてきました。ひょっとこもいます。大蛇も持ってきました。盛りだくさんな撮影会で楽しませていただいた。帰り際に、壁画の無事の完成を祈念して御幣を頂戴した。
佐伯支店木戸次長も見学に訪れ便乗ジャンプではじけた。
ついでに、キャラリンパプロジェクトの忍者も撮影した。
菅隆倉庫の隣、首藤内装の皆さんにはお茶を頂いたりおやつをいただいたり、電源まで引かせていただいたり温かいサポートを頂いた。狩生さん、ツルヨさんは紙吹雪を袋一杯つくってくださった。地味に大変な作業ご苦労様でした。佐伯現代アート計画の管さんには倉庫をお借りし、高司さんは紙吹雪を散らしに寄ってくれた。桜工業、その友人の電気屋チーム、近所にお住まいの柴田先生は連日シュークリームを作ってみなさんに振る舞ってくださった。桑門夫妻もいつもありがとうございます。ほとんどは3月の長門病院市民参加型壁画で出会った佐伯の人々だ。応援していただいていて嬉しい。
[現場入り]
7月10日 現場入り初日。
それ以前に、丸京石灰の鳥越さん指示の元、左官職人により漆喰施工されきれいなベースが仕上がっていた。古典技法フレスコ・セッコは石灰下地と相性が良い。カゼインというミルクタンパク質粉を前日から使用する量を水に浸して冷蔵庫に保管、使用直前に石灰を混ぜ乳鉢でよくこねると粘着性が高くなる、それを膠がわりに耐アルカリ性の顔料を溶いて描く。然程難しくはない。大変なのは現場で天井を向いて絵を描く事だ。制作期間は一日約9時間描画し二人掛かりで20日を要した。絵の具が落ちてくると危険なので防塵ゴーグルは必需品、それから首と額に貼る冷却シップも欠かせなかった。
日々、白い画面が少しずつ色彩とフォルムで空間が創られてゆく美しい石灰の天然色は白く発光してみえる。その石灰色を活かすようになるべく大事な箇所には顔料の白は使用しない様こころがけた。
今回描いた〝神楽人〟は撮影した人物のフォルム、コントラストのもつリアリティーをそのまま活かす意図で絵画化(プロデュース)した。真上天井面に楕円の画面、色々な角度からみてもそれぞれのキャラクターが主張できるような構成と佐伯の風景の象徴でもある櫓門をいれた。当初は櫓門は描かず福の神を描いてオール神楽陣にしようかと迷ったが、、櫓門を描く事で佐伯支店のイメージを印象付けれると考えた。比較的にぎやかに6つのキャラクターを入れこみ余白空間に紙吹雪を舞わせた。
店舗施設である為あまり無理はいえないが、天井面は強い陰面なので折角の鮮やかな色彩が沈んでしまう、建築照明担当者には工夫して頂きたい、、ふわっと全体を照らす照明などをあてていただけるとよいが。。
天井画制作最終日は公開制作とした。銀行という性質なため予約時間制で受け付けた20人程にご覧頂いた。中学校での美術恩師の後藤先生、笑顔で作品を見て下さった。あぶりやのご夫婦、岩根さん、桑門夫妻、首藤さん、華子さん、工藤さん、橋佐古さん、隈さん、平さん、ルンビニのこども達、合同の佐藤さん、長門会長、染矢さん、そして重岡岩戸神楽の山岡学長『90年続けてきてよかった勇ましさがようかけちょる感動した!』学長の熱い涙と言葉が嬉しかった。
作品『佐伯』に舞う!は、神楽人の舞う姿に自分の心情を重ねたものだ。
『私もまた佐伯を舞うひとりでありたい』。
そして佐伯を舞台に生きる全ての人にこの天井画を捧げたい。
8月4日、明日オープンする新店舗。
『新・佐伯観光名所宣言!大分銀行佐伯支店』
そのキャッチコピーからは甲斐支店長の熱さが伝わってくるようだ。
壁画家 佐倉康之