佐倉康之・代表謝辞

NAGATO2014 壁画PROJECT

代表謝辞

アドレナリンの作用とは交感神経が興奮した状態、すなわちそれは『闘争か逃走か(fight-or-flight)』のホルモンと呼ばれるらしい。
3月23日、あたかもこどもの頃の、運動会の日の朝のような興奮で夜明け前からギラギラしていた。

春まじか、快晴。

この日は、長門病院壁画天井及び壁面併せて45m×2mを6時間の予定で削り上げるという無謀とも思える挑戦だ。天井に施した漆喰を削る為に集まってもらった『削り隊300コマ延べ300人』は募集してわずか3日で満員御礼となった。
ここに至るまで、多くの人の出会いがあり惜しみない協力があった。
こどもたち120人と描いたお花畑の原寸大原画、その原画を45パーツに分け、線香での地道な穴あけ作業が3週間つづいた。こどもたちが一瞬で描いた線を大人達が膨大な時間と労力で『型紙』にしてゆく作業、『senkoミュニケーション』という言葉がうまれたりして仲間の絆も深まってゆくことが嬉しかった。
このプロジェクトの背景には『佐伯を愛し佐伯に貢献された人生の先輩達の背景を花いっぱいに彩る』といった長門和子会長のやさしく温かいビジョンがあった。

命は永遠ではない。
ゆえに人は活きる証を刻みたいとおもうのだろう。
フレスコ画とは人の想いを封じ込め永遠化させるタイムカプセルのような技法である。

想いを込めるのならば大勢の方がいい。
全世代に関わりのもてる壁画制作のプロセスをイメージして、
市民参加型壁画(フレスコ画)プロジェクトを提案した。

それは石灰が生乾きのうちに色彩を施すことで結晶化し半永久的に退色することはないとされる中世から伝わる古典技法である。
技術及び素材提供に津久見の丸京石灰が全面協力して下さった。
丸京の鳥越さんは状況の厳しさを知りつつもリスクを計算し幾度も素材実験を繰り返す。実行日3日前にその配合と素材選択が決定した。

こどもたちの純粋度の高い『ドローイング』=『元気の源』を刻もう!
『削り隊』は燃えていたが、壁面及び天井面は容易に遂行できる仕事量ではない。
1時間50人態勢、50コマごとに振り分けられた5チーム×6時間=300コマにエントリーの削り隊は大所帯でありそれを効率よく動かす為には組織化し連携する必要があった。現場監督の指示の元、長門チームによる誘導班が現場状況の注意点の説明をし、長門パン屋さんは休日返上で参加者の為にパン600個を焼いてくれた。エントリー管理班、『削り人』の個性を引きだそうと試みたジャンピング撮影班、左官職人さんチーム、誤って削った場所を都度都度補填して廻る丸京•鳥越さんの存在は心強かった。
NHK佐々木さん、西日本新聞記者の角谷さんは取材の傍ら自ら汗だくになって天井を削っていた。
長門会長も雨合羽にゴーグル姿でみんなに混じって一生懸命な姿をみせてくれた。桜工業のみなさん、佐伯現代アート計画のみなさん、ケーブルテレビチーム、緑丘高校先輩後輩、ルンビニチーム、みのり幼稚園チーム、senkoコミニュケーションを笑顔で盛り上げてくれた華さん、柴田師匠はじめ門下生、還暦の誕生日記念の谷川画伯、長門チーム、ドキュメント撮影の麻生さん、佐伯市民有志のみなさん。

どうもご苦労様でした。

たくさんのかけがえのない絆ができた気がしてます。
一人では立ちすくしてしまう程の壁でも、仲間といっしょならば挑戦出来た。
ぼくも削り隊の一人として全力で削りました。
くたくたになりましたが実に愉快な時間でした。

次の日の朝、足場の外された静寂の廊下を歩きました。
淡い色彩が空間に漂っていて、みあげると昨日の熱気の跡がしっかりと刻まれていました。
ぼくはそれを『美しい』と感じました。

そしてこれは『削り』ではなく『刻む』という行為なのだなと解りました。
今を生きる、今を刻む『刻み隊』だったのだなと。
大勢のやさしいこころが降り注いでいる、大勢のアドレナリンが刻まれている〝絆〟の壁画だと感動しました。

入居される高齢者のみなさんの背景を情熱が彩っています。
この〝お花畑のトンネル〟を通過するとき、きっと感じるはずです。
佐伯の人たちはなんて素敵なんだと。

企画に賛同し応援して下さったたくさんの方々に感謝申し上げます。
またこのような機会を与えて下さった長門和子会長さんに心から感謝申し上げます。

佐倉康之 壁画家

2014年3月29日 佐伯にて

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